一般的に、マイクロスコープは「倍率が高ければ高いほど詳細かつ正確な画像データを得られる」と思われがちですが、デジタルマイクロスコープの場合、必ずしも倍率のみが画像データの正確性を左右するわけではありません。光学性能という重要な要素も加味し、製品選びをすることが重要です。
ここでは、目的や観察対象に応じたデジタルマイクロスコープの倍率の選び方、および、デジタルマイクロスコープにおける光学性能の重要性について解説しています。
目的に応じて必要な倍率は異なる
使用目的に応じ、デジタルマイクロスコープの適切な倍率を見てみましょう。
趣味や自由研究レベルなら50~200倍が適切
趣味や子どもの自由研究として昆虫や葉の表面などを観察する場合には、50倍程度の倍率が適切です。また、花粉などの構造を観察したい場合には、200倍程度が目安となるでしょう。
それ以上の倍率を選んだ場合、かえって全体像が分からなくなり目的に沿わない観察となる恐れがあります。
工場などの業務で使用する場合には100~1,000倍が適切
微細な部品のチェックや、はんだ付けなど工場業務などでデジタルマイクロスコープを使用する場合には、対象物の大きさや観察目的に応じて100~1,000倍の間の倍率を選ぶと良いでしょう。
常に同じような部品を観察するわけではなく、様々な大きさやタイプの部品を観察するのでしたら、倍率の幅が広いデジタルマイクロスコープを選びます。また、必要に応じて、倍率の大きさだけではなく照明機能の有無も確認します。
研究で使用する場合には観察対象に応じた倍率を選ぶ
研究で使用する場合には、研究対象に応じて臨機応変に倍率を選びましょう。
肉眼で視認できる微生物などの観察でしたら、100倍程度が適切です。それ以上に大きな倍率になると、逆に観察しにくくなることがあります(観察目的によります)。
また、ミドリムシなどのような極めて小さい微生物の観察でしたら、200倍程度がおすすめです。細胞内の染色体を観察したい場合には、1,500倍程度が適しているでしょう。
観察対象の大きさや観察目的が幅広い場合には、標準倍率の異なるデジタルマイクロスコープを複数用意するか、またはオプションレンズを購入して倍率の幅を広げて対応します。
デジタルマイクロスコープは倍率以外にも光学性能に注目
一般的なマイクロスコープとデジタルマイクロスコープは、倍率の考え方が異なります。デジタルマイクロスコープの場合、倍率の大きさに加えて、光学性能の高さが観察結果の正確性を左右します。
デジタルマイクロスコープにおける倍率の考え方
一般的なマイクロスコープでは接眼レンズを通じて対象物を観察しますが、デジタルマイクロスコープではモニターを通じて対象物を観察します。そのため、単純にモニターのサイズを大きくすれば、デジタルマイクロスコープの倍率も大きくなる理屈です。
しかし、モニターの大きさに関わらず、デジタルマイクロスコープから得られる画像データの情報量は変わりません。結果として、モニターを大きくすればするほど、画像がぼやけてしまうことにもなります。モニターのサイズを上げて倍率を上げれば正確な情報を得られやすくなるわけではない点を理解しておきましょう。
分解能と開口数が画質を大きく左右する
マイクロスコープ画像の正確性・鮮明性の能力を分解能と言います。先の例から、デジタルマイクロスコープのモニターサイズを大きくしたとしても、分解能が上がるわけではない点が理解できるでしょう。
分解能の能力は対物レンズが集める光の量に左右されますが、この光を集める能力は、対物レンズの開口数によって決まります。対物レンズの開口数が大きければ大きいほど多くの光が集まり、結果として分解能が上がって、より正確・鮮明な画像を得られることになります。
この一連の能力を指す用語が「光学性能」です。光学性能の高さは、実際にデジタルマイクロスコープからの映像を見てみなければ分かりません。
光学性能をチェックする方法
デジタルマイクロスコープの光学性能を確認するためには、実際にモニターへ画像を映し出しした上で次の点をチェックしてみましょう。
- 全体的に色がぼやけていないかどうか
- 肉眼で見た時の色と違いはないか
- 観察対象や周辺がぼやけていないか
- 観察対象や周辺が歪んでいないか
- 臨場感を感じられるかどうか
複数のデジタルマイクロスコープを比較し、違いを確認しながら慎重に製品選びをしましょう。
【まとめ】倍率に加えて光学性能の高さが重要
デジタルマイクロスコープの倍率の選び方について解説しました。
デジタルマイクロスコープによる映像は、モニターを大きくすればするほど倍率も高くなります。ただし、いかにモニターのサイズを大きくして倍率を高めたとしても、同じデジタルマイクロスコープから得られる映像データの情報量は同じなので、観察・検査等の精度を左右しません。むしろ画像がぼやけて焦点が不鮮明となり、不適切な観察・検査結果を導くこともあります。
デジタルマイクロスコープの倍率を選ぶ時には、倍率そのものに加えて光学性能が重要であることを理解しておきましょう。